ザ・コカ・コーラ カンパニーの挑戦と成果

コカ・コーラ社の挑戦と達成

2021 年に開催された東京2020オリンピック・パラリンピックで、ワールドワイドパートナーを務めたコカ・コーラ社。新型コロナウイルスの影響による1年延期や無観客開催など、多くの困難があった中でも、開催をサポートしてきました。長年にわたって大会を応援してきたコカ・コーラ社は、どのような思いで今大会に臨んだのか。東京2020チームのトップである、ゼネラルマネジャー&バイスプレジデントのジェームス・ウィリアムズに、東京2020 オリンピック・パラリンピックを振り返ってもらいました。

文=小山田裕哉
写真=村上悦子

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何が起こるか分からない中で抱えていた不安

――今回のオリンピック・パラリンピックは前例のない状況下での開催となりました。東京2020 チームとしても、大会に臨む姿勢に変化を余儀なくされたのではないでしょうか。

ジェームス  確かに私も含め、誰も想定していなかった事態に臨まなければならない大会でした。そういった意味で、開催に向けた準備にもさまざまな変化がありました。

まず、不確実性を受け入れなければなりませんでした。それは、特に過去の大会と異なる点だったと思います。何が起こるか分からない。そういう不安をチームの多くのメンバーが感じていました。

だから私は、彼らに対してこう伝えました。「こうした不確実な状況では、努力だけではどうにもならないことがある。それに不安を覚えることは、むしろ自然なことだ」と。その前提をチーム内で共有しなければならないと考えました。

ずっと準備していたことがいきなり延期になったわけですから、精神面での影響だけでも大きなものがあります。リモートワークが増えたことも新しい経験でした。だから、チームのメンバーとは常に連絡を取り、オープンに話し合って信頼関係を築くことが大切でした。このような状況下で  “人”にフォーカスしたコミュニケーションは、いくらしてもしすぎることはありません。

未知の状況に対する不安

――具体的にどういう言葉でチームを鼓舞していったのでしょう?

ジェームス  私は、延期が決定した直後に、このポジションに就きました。当時、チームの状態は決して良くありませんでした。

だから、まずはチームを取り巻く状況をリセットすることから始めたのです。メンバー全員に対して、自分自身に「WHY」を問いかけてほしいと伝えていきました。つまり、何を目的にこのチームが存在し、そして自分がなぜチームに入ろうと思ったのか、またどんな役割を果たせるのか。それを問い直すことで、自分自身はもちろんですが、関わるプロジェクトやチームに対する信念を再構築しようと考えたのです。

5つのレガシーはいかに達成されたか

――コロナによる延期を受け、皆さんはチームが果たす役割を、どのように定義されたのでしょうか。また、その達成度をどのように振り返っていますか。

ジェームス  私たちは早い段階から5つのレガシーを定めていました。1つ目は、プロモーションの対象商品を5つのレガシーブランド(「コカ・コーラ」「綾鷹」「ジョージア」「い・ろ・は・す」「アクエリアス」)に広げることで、コカ・コーラ社はすべての消費者のさまざまなニーズを満たすことができる多様な製品ポートフォリオを提供する企業だという認識を広めること。これは、製品の認知度を上げるという意味で大きな成功を収めました。

2つ目のレガシーは、大会延期によりコマーシャルとエグゼキューションを一つにまとめることができました。これまでは別々のものとしてきたのですが、今大会からは一緒に扱うことで、よりシナジー効果を高めることができました。これは、過去のオリンピック・パラリンピックのプロモーションの中で、最も効果的な取り組みであり、長期的に影響を及ぼしていくレガシーになったと思います。

3つ目は、企業の社会的評判とサスティナビリティーに関するものです。今大会では会場のあらゆる場所で使用されたPETボトルを回収するだけでなく、聖火ランナーやコカ・コーラ社員のユニフォームに我々が回収したPETボトルが再利用されています。これはオリンピック・パラリンピックの歴史上初の試みであり、今後も継続して取り組んでいくレガシーとなることを願います。

4つ目はデジタルの活用で、こちらも大会延期後に非常に注力した内容でした。例えば「Coke ON」アプリを活用した、デジタルピンバッジが当たるプロモーション。日替わりのピンバッジをアプリ上で集めるイベントを行い、1日に7万個ものデジタルピンバッジがオンライン上でやり取りされるほどの成功を収めることができました。

最後のレガシーは、“人”に関する取り組みです。全国の社員たちが、会社に対して誇りを持てるよう、大会との接点をつくる。聖火リレーへの社員の参加など、さまざまな施策を行いました。

5つのレガシーはどのように達成されたか

聖火リレー、プラカードベアラーに込めた意図

――聖火リレーのお話が出ましたが、コロナ禍での実施には、やはり多くの課題があったのでは?

ジェームス  ご指摘の通り、これまでにないチャレンジとなりました。我々としては聖火リレーもオリンピックの重要な一部として、サポートしていくことが自分たちの使命だと考えました。ランナーの皆さんに寄り添い、常に支えていくためにも、それぞれの街に実際にいるということが大切でした。

実施においてはプレーブック*にのっとり、一般参加者も含めたすべての方々の安全と安心を守っていくことを心がけました。

※プレーブック:東京2020オリンピック・パラリンピックに参加する、すべての選手や関係者を対象にした、国際オリンピック委員会(IOC)と国際パラリンピック委員会(IPC)、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会が策定した新型コロナウイルス対策の規則集。

オリンピック聖火リレーとプラカード保持者

――今大会では初の試みとして、開会式のプラカードベアラーの公募も行いました。これを実施した理由について教えてください。

ジェームス プラカードベアラー*公募の大きな目的は、オリンピック・パラリンピックのサポートを通じて、チーム コカ・コーラが伝えたいメッセージのアンバサダーになっていただくことでした。それは、ダイバーシティとインクルージョンについて学び、尊重するということです。

※プラカードベアラー:東京2020オリンピック・パラリンピックの開会式の選手入場の際に、世界の国・地域の名前が書かれたプラカードを掲げて先導する人のこと。

一般公募を行うきっかけとなったのは、オリンピックとパラリンピック競技大会の支援を通じて、メッセージを広く伝えるためでした。

実際、プラカードベアラーの選考では、ダイバーシティ&インクルージョンを重視しました。多様性を体現している人や、誰かに手を差し伸べ助けた経験がある方々が、開会式で選手と一緒に入場するという、一生に一度の経験をした。この経験を参加者の皆さんは、それぞれの地域で何年も語っていくでしょう。彼らのエピソードがメディアに取り上げられ、より多くの人に広がっていくということもたくさん起こりました。

これは社会にポジティブな影響を与えます。つまり、ダイバーシティとインクルージョンの実現に向けて、世界を変えていくための一つの手段でもあるのです。

プラカードベアラーの取り組みに、コカ・コーラシステムの社員も関わらせてもらったのも重要なことでした。パラリンピックでは、世界人口15%にあたる障がい者への差別をなくすことを目的にしたキャンペーン「#WeThe15」にも参加し、障がいがある人たちに対する理解を深め、共感する機会を持つことができたと思います。プラカードベアラーについても、大切なレガシーとして継承されていってほしいと願っています。

「日本以外の国では開催を実現できなかった」

――ジェームスさんはこれまでさまざまな国でオリンピック・パラリンピックをサポートしてきました。今回の開催にあたり、日本と他の国との違いを感じた点はありましたか?

ジェームス  私はオリンピック・パラリンピックのたびに国から国へと移動してきたわけですが、異なる文化や人々と接することで、いつも素晴らしい経験と学びを得てきました。ただ、今回はコロナ禍による延期という非常に特殊な状況の中での開催となり、多くの困難がありました。 

「日本以外にオリンピックを開催できた国はない」

その上で、私は日本だからこそ今回のオリンピック・パラリンピックは開催することができたと思っています。日本以外では、これほどうまくコロナ禍での大会を運営することはできなかったでしょう。海外の人たちと話しても、日本は本当に素晴らしい仕事をしたと、たくさんの方が称賛しています。

日本が大会を開催してくれたおかげで、オリンピック・パラリンピック合わせて約1.5万人ものアスリートが競技に参加することができました。この成果が、世界に与えた影響は計り知れません。日本の皆さんは互いに肩をたたき合って賞賛し合う、そういうお祝いをしてもいいのではないかと思うほどです。

――では、個人的に印象に残っている日本でのエピソードはありますか?

ジェームス  たくさんありすぎて、一つや二つに絞るのは難しいですが……。

チームのメンバーたちと過ごした時間にも大切な瞬間がいくつもあります。私たちはずっとオンライン中心でコミュニケーションをしていました。全員が一堂に会する機会を設けられたのは、開催直前のことでした。

もちろん、ソーシャルディスタンスを保ってのことでしたが、そこでユニフォームやバックパックなどを渡して、最後に集合写真を撮影したんですね。いろいろな課題を乗り越えて開催を実現できた。チームとしてみんなが力を合わせれば、こんなことができるんだと、誰もが興奮し、高揚していました。その姿もとても印象に残っています。

また、日本開催により延べ約15,000人の選手が参加できたことや、その影響の大きさについても触れています。

それから、私が個人的に日本の特別さを感じた瞬間がありました。閉会式が終わってスタジアムを出ると、多くの方々が「ARIGATO」と書かれたプラカードを持って出迎えてくれたんですね。もちろん、それはアスリートに向けたものであり、私に向けたものではないのですが(笑)、それでもやはり、あの光景を見たときは思わず涙ぐんでしまいました。

――最後に、東京2020 オリンピック・パラリンピックのサポートを振り返り、チーム  コカ・コーラはどのようなメッセージを伝えられたと思いますか。

ジェームス  やはりダイバーシティ、インクルージョンの大切さではないでしょうか。人間はどんな困難を前にしても、力を合わせれば克服できる。今回のオリンピック・パラリンピックは、誰か一人の力、一つのチームではなく、これに関わる全員が力を合わせたからやり遂げることができました。その事実こそが、ダイバーシティとインクルージョンの重要性を表しています。そうしたメッセージを伝えられたことが、最も大きな価値ではないかと思っています。 

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